RI法で密度、水分を計測する原理について
1.ラジオアイソトープ(RI)とは
同じ原子番号の元素でも原子核に含まれる中性子の数の違いによって質量数が異なる原子があり、それらをアイソトープ(isotope:同位体)と呼びます。
アイソトープには、原子核が不安定であるために原子核が崩壊し、放射線を放出して他の核種に変わるものがあります。放射線を放出して他の核種に変わる過程を「壊変」といい、壊変により他の核種に変わるアイソトープをラジオアイソトープ(放射性同位体、RI)と呼びます。
2.放射線の種類
ここでいう放射線とは、物質と作用して原子・分子を直接または間接的に電離する能力のある高い運動エネルギーを持つ粒子線および高エネルギーの電磁波のことをいいます。
主な放射線には、次のようなものがあります。
アルファ(α)線
高い運動エネルギーを持つヘリウムの原子核。陽子2個と中性子2個からなり、+2の電荷を持つ。物質の透過能力は低く、紙1枚程度で遮蔽することができる。
ベータ(β)線
高い運動エネルギーを持つ電子または陽電子。アルファ線よりは物質の透過能力が高いが、厚さ数mm のアルミ板や 厚さ10mm 程度のプラスチック板で遮蔽することができる。
ガンマ(γ)線
高エネルギーの電磁波。原子核の壊変により発生する。物質透過能力が高く、1/100にするためには約8cmの鉛板または約40cmのコンクリート壁が必要。
X(エックス)線
高エネルギーの電磁波。ガンマ線とは発生機構が異なり、原子核外での電場や軌道電子が関与した結果生じるもの。
中性子線
高い運動エネルギーを持つ中性子。物質透過能力は極めて高いが、水(H2O)などの水素を多く含む物質によって遮蔽できる。中性子線はその運動エネルギーにより、以下の4つに分類される。
・速中性子 :500keV以上 ※速中性子は高速中性子と呼ぶ場合もあります。
・中速中性子:1〜500keV
・熱外中性子:0.1keV以下
・熱中性子 :物質の熱運動と平衡状態にある中性子で、20℃の場合0.025eV
※「eV(電子ボルト)」とはエネルギーの単位の一種で、粒子や放射線などのエネルギーを表す際に用いられます。放射線のエネルギーで使う場合は、k(キロ、×103)やM(メガ、×106)などの接頭後を付けて使用する場合がほとんどです。
1(eV)= 1.602×10−19(J)
中性子は陽子と質量がほぼ同じであるため、陽子(水素原子核)との衝突で大きく運動エネルギーを喪失する性質があります。
土木・建設の分野では、ガンマ線はおもに密度の計測、中性子線は水分量の計測にそれぞれ利用されています。
3.ガンマ線による密度計測
3.1 ガンマ線と物質との相互作用
ガンマ線と物質との相互作用には、おもに次の3種類があります。
(1)光電効果
電磁波(ガンマ線)が原子の軌道電子に衝突したときにその全エネルギーを軌道電子に与え、軌道電子が飛び出して自らは消滅する現象。飛び出した電子は光電子と呼ばれます。
(2)コンプトン効果(散乱)
ガンマ線が原子の軌道電子に衝突し、エネルギーの一部をその電子に与えてその電子をはじき出し、自らはエネルギーを減じるとともに進行方向を変える現象。
(3)電子対生成
原子核の作るクーロン場の中で、高エネルギーのガンマ線が陽電子と電子のペアを作り、自らは消滅する現象。
ガンマ線のエネルギーが1〜5MeV程度の場合、ガンマ線と物質の相互作用のほとんどはコンプトン効果です。ガンマ線は物質中でコンプトン効果を繰り返すことでエネルギーを失い、最後は光電効果により消滅します。
3.2 ガンマ線による密度測定の原理
ガンマ線のエネルギーが1〜5MeVの範囲では、ガンマ線と物質の相互作用は、そのほとんどがコンプトン効果です。また、ガンマ線と物質との相互作用によりガンマ線の強度が減少する割合を表す係数を質量吸収係数といいます。
ガンマ線のエネルギーが0.3〜2MeVの範囲において、水素原子を除き質量吸収係数はほぼ同じ値となります。このことは、0.3〜2MeVの範囲のエネルギーを持つガンマ線が土の元素構成によらず、ほぼ同じ反応を示すことを示しています。ガンマ線による密度測定はこのようなガンマ線の性質を利用しています。
3.3 ガンマ線透過型密度計
ガンマ線密度計には透過型と散乱型の二種類がありますが、ここでは弊社のRI計器で採用例の多い透過型の密度計について説明します。
ガンマ線源は60Co(コバルト60)、137Cs(セシウム137)、133Ba(バリウム133)の3種類を用途や目的によって使い分けています。
測定対象である地盤を透過して検出部で検出された単位時間あたりのガンマ線の数(計数率)をNρとすると、地盤の湿潤密度ρtとNρの関係は次式で表されます。
Nρ=A・eB・ρt
A、B:校正定数
ρ t:湿潤密度
校正定数A、Bは測定器ごとによって異なる値であり、校正試験により求めます。また、上記の指数関数式を校正式といいます。
校正式を用いることにより、計測値であるガンマ線の計数率から間接的に湿潤密度を求めることができます。
4.中性子線による水分計測
4.1 中性子と地盤構成物質との相互関係
線源から放射された直後の高い運動エネルギーをもつ中性子は速中性子と呼ばれます。中性子と物質の原子核が衝突した場合、原子核の質量が中性子より大きいと中性子はあまり運動エネルギーを失わず、進行方向のみ変化します。ただし、中性子とほぼ質量が等しい陽子1個のみで構成されている水素原子核と衝突した場合、進行方向が変わるとともに運動エネルギーを大きく失います。速中性子が水素原子核との衝突を繰り返すと、最終的に運動エネルギーの低い熱中性子と呼ばれる状態になります。地盤中の水素はそのほとんどが水分子(H2O)として存在するため、速中性子または生成された熱中性子を測定することで、地盤中の水素原子濃度、すなわち単位体積当たりの水分量を間接的に測定することができます。なお、中性子線による水分計測には散乱型と透過型の2つの方式があります。
4.2 中性子散乱型水分計
中性子の検出には³He比例計数管を使用します。³He比例計数管は中性子のうち、熱中性子のみを検出することができます。中性子を放出する中性子線源としては252Cf(カリホルニウム252)を使用します。中性子線源から放出された速中性子は、水分子の水素原子核と衝突して、減速、散乱を繰り返します。衝突を繰り返すことで生成される熱中性子は、土中の水分が多ければそれに伴って多くなり、反対に水分が少ない場合は、生成される熱中性子が少なくなります。散乱型水分計では、生成された熱中性子を計測します。土中の水分量(含水量)と単位時間あたりに検出される熱中性子数との関係は上に凸の曲線で与えられ、以下に示す二次曲線などの曲線式で近似することができます。
Nms=C+Dρm+Eρm²
Nms:単位時間あたりの熱中性子の検出数
ρm:含水量(Mg/m³)
C、D、E:校正係数
弊社のRI計器のうち、簡易型RI水分計WARP-miniは散乱型水分計に該当します。
4.3 透過型水分計
透過型水分計は、散乱型水分計とは反対に土中の水(水素原子核)とあまり衝突せず、運動エネルギーを失わなかった速中性子〜速熱中性子を測定対象にしています。弊社のRI計器のうち、ANDES、SRID、COARAの水分測定部は透過型水分計を採用しています。
なお、³He比例計数管は熱中性子の検出しかできないため、測定対象を透過して測定器内部に到達した速中性子〜速熱中性子を中性子検出器の周囲に配置した中性子減速材で強制的に熱中性子に変化させて測定します。また、土中の水分(水素原子核)との相互作用で減速されて生成された熱中性子は誤差の原因となるので、中性子減速材の周囲をカドミウムなどの熱中性子吸収材で覆い、外部からの熱中性子の入射を遮断します。
透過型水分計の校正式は指数関数で表され、次のようになります。
Nmf=C ・eD・ρm
Nmf:速中性子の検出数
ρm:含水量(Mg/m³)
C、D:校正係数